2011年12月22日木曜日

Natureに載った鳩山由紀夫の記事:福島原発の国有化

Nature 12/15
今週出た12月15日(No.7377)号のNatureに民主党の鳩山由紀夫氏と平智之氏が投稿した記事がありました。実はこの号の表紙はそれを特集したもので、日の丸をバックに黒塗りされた手順書の写真となっています。

鳩山氏や平氏らは原発事故後、Bチームというものを立ち上げて、事故収束のためにいろいろな提言をしていこうという運動をしているようです。なぜ福島原発の国有化が必要かと言うと、情報開示が主な目的であるようです。
現在でも福島原発の事故がどういう経緯で起きて、どういう状態になっているかが明らかになっていません。例えば炉内の核反応は今も続いているのか、爆発が起きた原因は水素爆発なのか核爆発なのか、核燃料は原子炉下のコンクリートを突き破っていないのかどうか。こういったことが明らかにならないと、今後の事故収束のための手順に違いが出ることでしょう。

記事によると3月の時点でTEPCO(東京電力)が再臨界を示す同位体のCl38が検出を報告していたが、NISA(原子力安全・保安院)がNa24も同時に出ていないのでそのデータには疑問があるとしたという。しかしその後再度データを見ると、明らかにCl38が検出されていたらしい。
また、原発事故の際に冷却装置のスイッチを切り替えたのかなど、当時の状況を知るのに必要な情報を求めたところ、当時の手順書の多くが黒塗りにされて提出されたことは有名です。黒塗りは知的財産やセキュリティー上の必要性からの処置とのこと。
このような政府と東電との情報や意思疎通がうまくいっていない例がいくつか挙げられていました。おそらくこのような理由から、鳩山氏らは国有化が必要だという主張をしたのだと思います。

また国有化による情報開示を具体的にどう進めるかというと、独立した科学者を福島原発に派遣して調査をすることで実態を調べるということが提案されています。

しかし国有化することで果たして情報開示が進むかは疑問です。東北の地震や原発事故後に限らず東北の地震のことを思い出すと、東電だけでなく政府自身も情報を隠していたり政府内での情報伝達がうまくいっていなかったように思います。たとえばベント後にいっこうにSPEEDIの情報が開示されなかったのは、東電とは関係なく政府が情報を隠したか、政府内での組織運営がうまくいっていなかったからだと思います。地震後の何日かで支援が必要な状況で、被災地に物資が届かなかったということもあります。
むしろ政府に一元化したほうが情報が隠されるんじゃないかという気もします。ですから国有化をしたとしても、同時に情報開示と説明責任を明示しなければ意味がないように思います。

2011年12月14日水曜日

酵母の多細胞化?『実験進化学』の最近の成果

今週出た11月18日号のscience誌では、実験進化学の記事がありました。実験室で酵母を多細胞に進化させたという触れ込みなので、ちょっと期待して読んでみました。
実験進化学は主に微生物が対象で、特定の環境負荷と選別によって実際に生物を進化させることで、進化について研究する分野です。人類は長い歴史の中ですでに栽培植物や家畜など、意図的に種の形質を変化させています。実験進化学は主に微生物を使って、それをもっと短いスパンで行うことに特徴があると言えると思います。
記事では実験進化学の最近の成果として、3つの研究が挙げられていました。

1つ目はGraham Bellが行った研究で、藻類に光を当てない環境に置いて選別をし続けたところ、光に頼らないで生きられるものができたそうです。いろいろな経路で変化した個体がいて、それらがどのように変化していったかを追跡して行ってもっと詳細が分かれば、生物が遺伝的・機能的にどのような経緯をたどって進化して行くかが分かるかもしれません。

2つ目はAneil Agrawalの、なぜ性が存在するかを問う研究です。
agrawal
ワムシという微少な動物は有性生殖と無性生殖をスイッチできます。このワムシ達を、エサの栄養分が一定の環境と、栄養分を変動させた環境に分けて置き、有性と無性の個体の割合を調べたそうです。そうすると環境が変動した場合に有性が多くなり、環境が一定になると有性が減っていったということです。
この結果から、有性生殖は環境変化への適応という意味でメリットがあるという説を補強できるかもしれません。

僕としては、この実験からはまだまだそのような確定的なことは言えないと思います。エサの栄養による環境変化という側面でしか見ていないですし、たとえば栄養が変動することで代謝が変わって、有性と無性の割合に変化があっただけかもしれません。
性が存在するメリットとして、遺伝子をオスとメスで混ざり合うことで環境への適応度が高くなるという説がありますが、無性生殖の場合も分裂した時の変異で環境への適応度が高くなります。したがって、有性生殖ではオスとメスが出会って子を産むことの非効率さのコストと環境適応などのメリットの兼ね合い、無性生殖では遺伝的単一性の環境変化への危うさと増殖の早さのメリットの兼ね合いがあって、有性生殖の方がより有利であるなら有性が選ばれるのかもしれません。もしそうなら、どの程度の環境変化で有性生殖が有利になるのかが本当に知りたいところです。

3つ目はWill Ratcliffによる酵母の多細胞化の研究でした。
Ratcliff
まず選別の基準として大きな酵母が生き残るように設定し、そのような大きな酵母を選び取るために酵母の入った培養液をしばらく放置して下に溜まった1%を選び、さらに大きくなると遠心分離器で分離して大きな個体を選別していったらしい。その結果、普通は酵母同士がバラバラに分離するのに、バラバラになるための酵素がなくなり、これらの酵母は互いに接着してクラスターを形成していったという。大きな酵母が生き残るという選別の結果、酵母同士がかたまることでもっと大きくなったと解釈できそうです。
素人目には、単に互いにくっつくようになっただけに見えなくもないですが、このような単純な実験で意図的に選別することで多細胞化のような変化が起きたことが注目に値する所らしいです。

多細胞生物の特徴というと細胞が集まるということも重要ですが、もっと重要な側面は細胞同士の分業だと思います。つまり多細胞生物では生殖細胞がすべての体細胞を作り出し、体細胞がそれぞれ機能を分化していくという側面です。
ですからもしも実験室で意図的に選別を行って、細胞の分業をも作り出すことができたとしたらそれこそすごいと思います。また、環境の変動という意味では、他の生物や同種の細胞との競争という側面を実験室で再現するということができれば、さらに選別の方法が広がると思います。
現状ではまだその端緒といったところなのでしょうか。

こういった進化を意図的に引き起こして研究するという試みは、遺伝子組み換え技術を補間するという意味で重要だと思います。遺伝子組み換えはあくまでも遺伝子の切り貼りであって、細胞内の他のタンパク質との相互作用や、細胞特有の情報伝達をそのままに、単に他から遺伝子を導入しているというのが現状だと思います。一方進化というのは、小さな変異を環境への適応を通じて、全体を少しずつ微調整していく過程です。だから、遺伝子を導入した後に細胞や組織内でどのようにそれを定着させていくか、あるいは変異を通じていかに生物に目的の遺伝子型を持たせるかということに、この学問の知見は使えるかと思います。

参考ウェブサイト:This Week in Evolution R. Ford Denison

2011年12月9日金曜日

無料で使える海外の学問・教育サイトのまとめ(ツール編)

(1) Gapminderは、国ごとの一人あたりの所得と寿命など2つの指標の動きを、年を追って動的に見ることができるツールです。普通のグラフやチャートでは、動的な動きが分からないことが多いと思います。特に加速度や速度を同じグラフで表そうとすると、ややこしくなりやすいのですが、このツールでは動きという情報があるために、それぞれの国の指標がどのように変化しているかが直観的に分かります。


この動画のように、各国の動きをまるでレースのように見ることができます。また、指標は自由にカスタマイズできますが、経済指標だけでなくHIV感染率や、ジェンダーなど社会的な指標がとてもたくさん用意されています。Open Graph Menuで、意味のある知見が得られる指標の組があらかじめ用意されているので、まずはそれに従ってみるといいかもしれません。
見てて思うのは、中国の近年経済的・社会的状況が加速度的に変化していることと、途上国の間でも動きに差があることです。また過去40年間における世界の地震による死亡者を見ると、意外にも中国や中東、中南米も多いようです。

(2) Wolfram Alphaは、ネット検索と数値計算、Wikipediaを統合したようなツールです。普通ネットで何かを検索するときは、サイトに載っているような言葉をあらかじめ想像して、その言葉が引っかかるような検索語を入力します。そしてそこから望む情報が載っているサイトを探し回ります。しかし未だに、SF映画のような、ロボットに聞きたいことを話しかけるとロボットが答えてくれるようなものにはなっていません。yahoo知恵袋などでは、そういった検索に引っかからないような質問に、人が答えるという場を提供しています。一方Walfram Alphaは、文章に近い言葉でも検索でき、検索した結果からサイトを探し出すのではなく、直接データを出力してくれます。
wolfram alpha

たとえばハンバーガーとアイスを食べた時に含まれる脂質量を知りたいとき、普通ならそれらの脂質が載っているサイトを検索して調べ、計算機でデータを出します。Walfram Alphaでは、「amount of fat in 1 hamburger + ice cream」と入力すると、それらの結果やコレステロール量などのデータが一気に出てきます。「weather in Tokyo」で検索すると、東京の天気が直接出てきます。
また、実験などで試料を秤量するときにモル表記の数値から何グラム加えるかを計算したりします。例えば50mmol/Lの次亜塩素酸ナトリウムを作りたい時に、溶液に何グラム加えたらいいのかを「sodium hypochlorite 50mmol/L」で検索すると、すぐに1Lに3.72gと出てきます。これで濃度計算のような煩雑な作業を省けるかもしれません。
なお、一応日本語でも翻訳されて検索できるようです。

ただし欠点もあります。検索の要求に幅広く答えることはできるのですが、やはりそれでも意図の通りの検索が出ない時があります。googleなどの普通の検索と違って、どこまでの言葉に対応しているのかが分からないので、前もって検索がうまくいくか不明確です。

(3) クルーグマン マクロ経済学は、ノーベル経済学賞受賞者の、クルーグマンのウェブサイトで、彼の有名な教科書の補間的なものとなっています。
klugman macroeconomics
経済学にとってグラフは重要ですが、教科書ではグラフの動きを表すために、たくさんの線を書き込んでいて分かりにくいことが多いように思います。そういった経済学のグラフを動きを含めて表示するコンテンツや、経済学クイズ、クルーグマン本人が金融危機問題などを語るビデオなどが見れます。
ただ、サイトの動作が多少重いのと、サイトの構造が分かりにくいのが欠点だと思います。

(4) PhETは、物理・化学・生物学・数学・地球科学などの学問の概念や理論を、ゲームのような操作で理解できるツールが集められています。
Phet chemistry
これの良いところは、単に触れるというだけでなく、パラメータを動かしてどうなるかといった本格的なシミュレーションとなっているものが多いことです。例えばフーリエ変換や、ウサギを突然変異させ、野に放つ進化シミュレーションパチンコで作る確率分布など、教科書では静的に見るだけの理論を、自分でいじることで理解できます。理解の程度を試す小クイズや、子どもなどに教えるための手引きなども用意されています。
大人でも充分楽しめるくらいのクオリティだと思いますし、学校教育にも使えるレベルのものだと思います。

関連記事:無料で見れる海外の学問・教育サイトのまとめ(動画編)

2011年12月6日火曜日

無料で見れる海外の学問・教育サイトのまとめ(動画編)

(1)
ネットで無料で見ることが出来る大学の講義動画サイトで、現在最も有名なのは『MIT OPENCOURCEWARE』でしょう。動画だけでなく、音声、講義ノート、テスト問題など、名門MITの講義で使われる多くの要素を、ネットで誰でも見ることができます。使われる言語はもちろん英語ですが、現在は中国語などの翻訳が進められています。残念ながら、日本語翻訳は、google翻訳を使った機械的なものに留まっているようですが、将来的には世界の流れに乗って、日本語翻訳も進められるかもしれません。

・欠点を挙げます。
動画などが見れる講義と見れない講義があり、また講義ノートなども中途半端に公開しているものがあるので、すべての講義で見たいものがすべて見れるようにはなっていないところ。また講義の検索も分かりにくい。
講義動画は1つにつき120分ほどの長さで、気楽に見るには長すぎる。さらに講義の録画なので授業の事務的な話などの冗長な部分がある。

個人的におすすめなのは、講義ノートを見ることです。ノートだけでもよくまとまっているし、すでに知っている部分は一目で飛ばせます。なのでまずは講義ノートを見てみて、詳しく知りたいときには動画を見るのがいいと思います。
MIT  lewin
自ら体を張って物理を教えるWalter Lewinの有名な講義も見てみてはどうでしょう。

(2)
また、UC Berkeleyでも同じように講義動画をたくさん公開しています。

(3) 
・MIT OPENCOUCEWAREの動画は長すぎるという欠点がありましたが、その欠点をなくしたものと言えるのが、『Khan Academy』です。カーンさんが、趣味で始めたもので、動画時間はだいたい10分ほど、手書きの図を書きながら話を進めるのが特徴。内容は、数学、生物学、化学、経済学、アートヒストリー、天文学など。本人は金融業をしていたようなので、経済学やファイナンスなどがとても詳しく、分かりやすいように思います。


・欠点としては、本人のしゃべり方が早口なので、非ネイティブには聞き取りづらいこと。なので、動画で描かれる図を見て、ある程度想像しながら聞くことになるかもしれません。さらに、カーンさんの非専門であろう領域、たとえば生物学などは、とても教科書的で、あまり珍しい知見はないように思います。なので、初級者がその分野を知ろうとするには良いかもしれませんが、ある程度分野の知識があるならば、すでに知っている情報が多いかもしれません。

(4)
カーンアカデミーを補完するように、主に生物学を扱う動画として、BozemanSceinceがあります。こちらも個人的に趣味で始めたもので、顔出し+綺麗なプレゼンスライドがあり、見やすいです。また実際に実験をしながらの動画もあります。


(5)
DNAtubeでは、CGを使ったヴィジュアルの良い生物学の動画がとても多くあります。時間も短いものが多いので、見やすいです。しかしサイトが重いのが欠点。

2011年11月15日火曜日

『品種改良の世界史・作物編』 鵜飼 保雄, 大澤 良 (編) の感想


品種改良の世界史・作物編品種改良の世界史・作物編
(2010/12/16)
鵜飼 保雄

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本の表紙のデザインや装丁が良く、思わず手に取りたくなります。
現在私たちが日常で食べたり使ったりしている作物が、どのような歴史をたどって行ったかをまとめた本です。作物ごとに章が分かれています。主な記述は、栽培植物の野生種の起源地、その伝播の過程、各国の利用と育種の進展などです。
特に良いところは、イネ、小麦、トウモロコシなどメジャーな作物だけでなく、ソルガム、アワ、ソバ、テンサイ、サトウキビのようなマイナーといえる作物についても詳細に記載されているところです。

本書では栽培植物の起源地を探るための方法として、過去の2人の学者の説が頻繁に引用されます。ひとつはフランスのアルフォンス・ド・カンドルが『栽培植物の起源』で著した説で、栽培種と近縁関係にある野生種の地域がその栽培の起源地であるという説です。たとえばイネなどでは、イネと他の雑草を交雑してちゃんと種がつくかどうか、染色体の対合は正確かなどの情報から、近縁関係が調べられています。もうひとつの説は、旧ソ連のニコライ・イワノヴィッチ・ヴァヴィロフのもので、栽培植物の多様性が高い地域を「多様性中心」と呼び、そこが起源地であるとしたものです。

伝播の過程では、旧アメリカ大陸の存在感に驚かされます。コーヒー、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、トウガラシ、トマトなどが、コロンブス以降西洋を通して世界中に知られ、ジャガイモやトマトのように最初は拒絶されながらも、定着していく様子が分かります。

現在日本で定着している多くの作物の利用が、実は1500年代以降であることが意外に多いことにも気づかされます。ソバは日本固有の食べ物のように思っていましたが、実は生産量はロシアが1位で、その利用の歴史も古く、パンケーキのようにして食べられていたようです。ヨーロッパの他の国でも、ソバパスタやソバクレープ、ソーセージの増量剤などにも使われていたらしい。
アメリカの映画ではよくオレンジジュースを飲んでいる場面をよく見ますが、これはスペイン風邪対策にビタミンCが豊富なオレンジジュースが奨励され、さらに第二次世界大戦のレーションにオレンジジュースの粉末が配られたりして、そういった食育の結果だそうです。

育種技術の進歩は、おおざっぱにいって、良い形質の個体を選抜して植え次ぐ選抜育種から始まって、自殖などを通して形質を固定して純系統を作ったり、メンデル以降は交雑の効果を積極的に利用して新しい形質や、雑種強勢株を作り出していった。さらに細胞培養技術を使ったものや、DNAの発見以降は遺伝子組み替えや遺伝子マーカーを使った育種法が開発されていったという。

ただし、この本の良くないところを挙げると、それは分量と記述の煩雑さです。この本は600ページほどの分量があるが、ヴァヴィロフの説や育種法の紹介など、重複した記述が多い。編著で作物ごとの記述をしているのは分かるけど、もっとまとめて書くことはできたかもしれません。

2011年10月21日金曜日

温暖化の効用?北極の氷が溶けてうれしい人たち

地球温暖化によって地表面の5パーセントを占める北極の氷が溶けているらしい。1979年から始まった衛星による観測によると、9月時点で測った氷の広がり方が10年ごとに12パーセント減ってきているということです。北極の氷が溶けるというと連想するのは、氷の上に取り残されたホッキョクグマだと思います。だから温暖化は良くないと言いたくなります。
しかし違う見方をすると、温暖化によって北極の海が開けてきているともいえます。

北極領有
他の大陸と違って北極の氷が増減すると、それに従って領有権の範囲も変わるようです。上の図の濃い色の部分は従来の排他的経済地域で、海岸線から370キロメートルの部分です。薄い色の部分はこれからそうなるかもしれない排他的経済地域です。各国の持つ地域が現在よりも広がっていて、ロシアに至っては北極点までの権利を主張しているようです。
・現在、北極の氷は人間にとって大きな障壁になっています。大きな流氷があることで船が通れなかったり、氷に阻まれて海底資源の採掘が難しくなっています。
北極の氷が溶けることで、北極を介した新たな航路ができるかもしれません。実際に2008年には有史以来初めて北極の航路を阻んでいた氷がなくなったらしい。それに伴ってアメリカとカナダでも航路をめぐって小競り合いが起こっているとのこと。

北極海底資源
・さらに氷が溶けることで、その海底などに眠っている炭水化合物などの資源が採掘できるようになるかもしれません。各国もそれを狙って動いているようです。
資源消費→温暖化という流れはよく聞きますが、温暖化→新たな資源ということもありうるということでしょうか。

・こういったことから、各国の争いが激化しそうです。しかしそれは他の場所で資源や航路が発見されても同じ事だと思います。なので、これは温暖化による良い効用の一面と言っていいかもしれません。
温暖化の是非を評価するのには、こういった良くなることと、悪くなることを比較しないといけません。これはその比較のための材料となりうると思います。

参考ウェブサイト:Redrawing the Arctic map: The new north

感染性ガンで絶滅の危機、タスマニアデビルを救えるか。

タスマニア島に生息するその名もタスマニアデビルは、現在感染性ガンが広まっていて、今のままだと25年以内に絶滅の可能性もあるようです。このガンの症状を、Devil Facial Tumour Disease (DFTD)といいます。
ガンは通常、自分の細胞が変異して自己の個体を死に至らしめたりはしますが、これが他の個体にまで感染してしまうというのは驚きです。
なぜこのような病気が広まってしまったかというと、タスマニアデビルは遺伝子の多様性が低く、互いに噛み合う習性があるので、噛み合ったときにガンが他の個体へ移ってしまうからです。

タスマニアデビル

そのため、現在タスマニアデビルの絶滅を防ごうという努力がなされています。
2004年から2010年まで、ガンに犯された個体を捕まえて隔離する方法がとられていました。
しかし、数学的なモデルで検証してみたところ、ガンの個体を96パーセント以上隔離しなければ感染の流行を抑えられないことが分かりました。
これは現実的には無理な数字のようです。しかもこれらの方法は1年に200,000ドル以上かかっているとのこと。

したがって代替案として、隔離だけでなく繁殖させるという方法がとられています。まだガンに犯されていない個体を隔離したり、ガン耐性個体の遺伝子やメカニズムを解明して、その知識を利用する、あるいは北西タスマニアにいるような遺伝的に少し異なる個体を持ってきて、それらを掛け合わせて繁殖させようというものです。
現在までに490以上の未感染のタスマニアデビルがブリーディングされているそうです。

しかし本当に感染性ガンでタスマニアデビルは絶滅することがあるのでしょうか。
ウイルスなどと同じように、あまり致死率が高いと感染先が徐々に少なくなってきて、毒性が弱まったり耐性個体が生き残ったりして事態は収束することになるように思えます。
また、遺伝的に似た個体が死んでいくということは、逆に言うと遺伝的に違う個体は生き残って数を増やすということです。これはボトルネック効果などで多様性が少なくなった集団が、遺伝的多様性のある集団になる過程のひとつなのかもしれません。
もちろんあまり個体が少なくなると環境の変動に弱くなるので、絶滅する可能性も高まる危険があることに変わりないでしょうが。

さらに、タスマニアデビルが互いに遺伝的に近くて細胞を個体から個体へ広げられるというのは、見方によっては良い作用に働くこともありうるかもしれないと思いました。感染性ガン細胞が変異して、集団にとって有利な細胞が広まるということはありうるのでしょうか。

参考ウェブサイト:Saving the Tasmanian devil: if not by selective culling, then how?(by Nick Beeton,Hamish McCallum) Cull 'cannot save' Tasmanian devil(BBC)

2011年10月18日火曜日

光速を越えるニュートリノ測定、原因は相対性理論の入れ忘れ?

CERNの実験で、光速を越えるニュートリノが測定されたということが話題になりました。
ニュースなどでは、従来の理論を塗り替えるのではないかという期待とともに、大きく報道されました。ただし専門家の間では、この測定結果をまともにとらえる人は少なく、むしろ実験のどこに間違いがあるのかを探すのに躍起になっているとも聞きます。

最近海外のウェブサイト(Speedy neutrino mystery likely solved, relativity safe after all)などを見ると、実験の間違いがどのようにして起こったのか分かったかも知れないと書かれています。

ただし公式見解ではないので、今のところ確証はないものだと思ってください。ぼく自身もこれに関する専門知識はありません。

それらの記事によると、間違いの原因はニュートリノ発射の始点と終点の時間を計る衛星のGPSが関係しているようです。
衛星と地球は共に動いているので、相対性理論によって異なる時間軸で動いていることになります。しかしそれを計算に入れないで時間を計ってしまったために、地上と衛星で時間がずれて、ニュートリノがたどり着く時間が実際より速く見えてしまったということです。

CERNの実験データではニュートリノが光よりも60ナノ秒早く測定されたことが問題となりましたが、相対性理論の影響によって、始点と終点で32ナノ秒ずつ早く見えてしまい、合計64ナノ秒ずれてしまうことになります。これを加味すれば、60ナノ秒早く測定されたことの説明がつくということらしい。

この記事が正しいとすると、時間の計算が間違っていたためにニュートリノが光より速いというデータが出てしまったという結論になります。
しかし疑問なのは、世界中の科学者が集まるCERNで、そのような間違いが見落とされるものかどうかです。CERNのチームとすれば、自分たちには間違いの原因が分からないから外部の人に協力を頼むというのは大変な不名誉のはずで、その前に徹底的に原因を洗い出しているだろうと思います。だから間違いの原因はデータ処理ではなく、実験装置や装置を動かす技術者のような、もっと制御が難しい微妙なものだと思っていました。
なので、この記事が事実だとしたら、なぜこのような見過ごしが起きたのか、実験チームに組織的な問題があるのかどうかが気になります。

また、もしCERNの実験結果が正しかった場合どうなるのかも気になります。
将来にわたって組織や装置を変えて何度も実験を繰り返しても、ニュートリノが光速より速いという結果が出た場合、物理学者たちはその結果を受け入れるのでしょうか。
ミリカンの電荷の測定なども、実際には不備があったことが明らかになっていますが、当時は受け入れられたといいます。
新しいパラダイムが受け入れられるにはどれくらいの証拠が必要で、どれくらいの不備ならば許されるのか。このCERNの問題を通して、これに関して何か得られればうれしいのですが。

2011年10月17日月曜日

「生物時計はなぜリズムを刻むのか」レオン・クライツマン(著) の感想


生物時計はなぜリズムを刻むのか生物時計はなぜリズムを刻むのか
(2006/01/11)
レオン・クライツマン、本間 徳子 他

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生物時計について、現在考えられているメカニズムやその多様性、さらに医療への応用を概観した本。
特におもしろいのが生物時計の研究史で、実際の実験がどのように進み、生物時計への理解がいかに変わっていったかが図と共に叙述されている。

現在までの研究によると、生物時計はシアノバクテリアから人間まで生物の中でかなり普遍的なものらしい。

たとえばごく下等な生き物であるバクテリアにとって時計はどういう意味があるか。
たとえばバクテリアが窒素固定と炭素固定のような、一方がもう一方を抑制するような反応を行う場合、反応を時間的にずらすために使われているという説や、過去の地球において紫外線から身をまもるために必要だったという説がある。
人間や鳥のような動物では、脳の中のSCN(視交叉上核)が生物時計にとって重要であることが分かった。これを切除すると行動のリズムが取れなくなったりする。さらにSCN単体を移植するとリズムが回復したりもする。

生物時計はリズムを刻むだけでなく、光が当たることで時計を1に戻し、地球の周期に対応している。
光を感じるのは通常目だが、人間では錐体、桿体以外に、生物時計用の光を感じる細胞が目に存在することが分かった。
鳥などでは、脳に光が透けて、脳の一部が直接光を感じたりする。

さらにDNAレベルでも生物時計は確認されている。
たとえば名古屋大学の近藤孝男さんは、シアノバクテリアの3つの時計タンパク質を試験管で再現し、実際に時計として働かせることができたらしい(http://www.brh.co.jp/s_library/j_site/scientistweb/no55/index.html)。

ぼくとしては、生物時計というものの存在意義や、どのような生態の中で進化を遂げたかに興味を持ってこの本を読んだ。

現在までのところ、ほとんどの生物時計は光によってリセットされ、24時間や半年、1年など、太陽の周期というものが主な周期の要因らしい。
それ以外に生態の中で周期的なものはないのか。またそういった周期に合わせる生物時計はないのかが気になる。

たとえば食う食われるの関係の中で、周期的な同期というのはありそうな気がする。
食われる側は、同期からはずれようとし、食う側は逆に同期しようとするように思えるが、生物同士の関係を通した同期というものが、どのようになっているかはこの本では分からなかった。

関連過去ログ:日光の届かない洞窟魚も生物時計を持つらしい。

2011年10月16日日曜日

~現代経済学者の弁明~「ソウルフルな経済学」ダイアン・コイル著


ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が1冊でわかるソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が1冊でわかる
(2008/12/05)
ダイアン・コイル

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2007年のサブプライムローン問題からリーマンショックまで、それが起こることをまったく予期していなかった経済学と経済学者には毀誉褒貶が向けられた。

今回の件だけでなく、過去に株の暴落や経済破綻が起きる度に、何度も経済学には疑いの目が向けられた。

また、経済学の教科書を眺めるだけでも多くの疑問が浮かぶ。
すべての情報を知り、自分が何が欲しいかを常に理解し、自己の利益のためにのみ動く主体。
こういっった多くのありそうもない仮定から、本当に経済についての分析を進めることが可能なのか。
また、他にもっといい仮定やモデルはないのか。

経済学に対しては、下手くそな予言者、難解な数式をあやつる人たち、科学になりきれない学問、のような多くの否定的な言葉がある。
しかし、著者はそういった経済学への非難は多くの場合誤解であるという。少なくともこの4半世紀の経済学は、過去の経済学では届かなかったところまで分野を広げ、より厳密に、実証的に経済を分析できるようになったという。

その原動力となったのは、コンピュータの発達と統計的な手法を駆使した計量経済学の発展であった。
言うなれば、昔ながらの合理的な主体や完全競争のモデルは、そういった手法が使えない時代の、妥協の産物であるとみることもできる。
たとえば50年前までは国のGDPを測るための統一的なデータは存在せず、経済成長についてのデータはこの20年にやっと揃いだした。

こうして今や、妥当性が疑わしい仮定ではなく、実際のデータを統計的に分析することで、現実の経済についてよし多くのことを知ることができるようになった。

さらに経済学に社会制度の考察を含めた公共選択論、スティグリッツらによる情報の経済学や、クルーグマンの産業立地に関わる貿易理論、カーネマンらの実験経済学、さらに脳から人の選好などを測ろうとする神経経済学など、すでに多くの分野が広がっている。

この本はそういった最先端の経済学を数式なしに著したものだが、理論の紹介のみならず、その意義や影響、欠点などを含んだ総合的な記述がなされている。
数式が多い本よりもむしろ内容は濃いかもしれない。
だからこそ、一般的な経済学の教科書を読んだ後に、この本を読むのが一番いいかもしれない。

2011年10月11日火曜日

NASAのヒ素DNAから見た科学の再現性

2010年の12月、NASAが重大な発表があるとして記者会見を開きました。
ついに地球外生物の発見かと期待した人も多かったみたいですが、実際には、リンがヒ素に置き換わっているDNAを持つ細菌を発見したという発表でした。
地球外生物を期待した人は失望したかもしれませんが、この発表がもし本当なら生物学としては重大な発見でしょう。

しかしその後、多くの専門家からNASAの発表への疑いが向けられています。
NASAの行った実験が、DNAにヒ素が取り込まれていることを証明するには不完全だったからです。
例えばDNAに取り込まれたのではなく、細菌の体に取り込まれただけではないか、DNAの検出の際に、ヒ素が混じってしまったのではないかなどと疑われています。

ヒ素を取り込んだDNAは本当にあるのか。論争を終わらせるためには、第三者による再現性の検証が必要です。


しかしNatureニュースによると、この検証実験を行うラボが出てこないということが話題になっています。
その理由として、そもそもヒ素DNA疑わしいと思われているので、検証実験をしてNASAの発見が間違いだと証明しても、ほとんど評価を得られないということが挙げられています。

さらに言うと、再現性の検証にはコストと時間、テクニックが必要なので、そういったものを費やしてまで検証実験をする余裕のあるラボが今のところいないようです。


このニュースから分かることは、再現性の検証という科学にとって基本的なことには制約があるということです。
それは科学の経済的、社会的側面です。
再現性を確かめるためのコスト・時間・技術には限りがあり、検証を行って評価されるインセンティブがないと行われにくくなります。

違う言い方をすると、それらの要素は科学における再現性というものを量的に評価するための指針となるかもしれません。
ですからこれは、科学哲学で一部で使われる「科学度」に含む要素として考えることもできるかもしれません。

参考ウェブサイト:Will you take the 'arsenic-life' test?

2011年10月7日金曜日

"昆虫未来学―「四億年の知恵」に学ぶ" 藤崎 憲治 (著)  の感想

昆虫は虫であり、虫は害虫といったイメージは未だに強い。
特に僕たちの生活の中で虫というと、家の中でゴキブリが走っていたり、クモが這っているのを見ることが多く、どうしても害虫としての虫のイメージが強くなる。

「昆虫未来学」では、こういった従来の害虫観から脱して、昆虫の利用や保護、さらには昆虫を工学などの視点からリスペクトし、昆虫から学ぼうという現在の潮流を紹介している。

明治以前も虫は恐れられていたらしい。
ただし地震や台風と同じ災厄として、避けられないものだと思われていたらしい。
明治以降、化学的な殺虫剤によって、虫は害虫として排除の対象となった。
虫の専門家でさえも、虫は根絶すべきものだと思っていたようだ。

しかしDDTの環境への影響を示唆する「沈黙の春」以降、殺虫剤の環境への負荷とともに、虫の環境への貢献が認識されてきた。
さらにここ最近では、「バイオミミクリー」といって、材料や工学の分野から見て、昆虫たちの体が持つ特性から学ぼうという動きが出てきている。

たとえばクモの糸の強度は、人間の作るナイロンよりも二倍も強く、これを真似ることで今までよりも便利な繊維を作ることができるかもしれない。

塔のようにせり上がったアリの塚は、室温と風通りなどの良い空調機能を持っている。
これを応用した建物が作られているらしい。

コガネムシのように光沢のある昆虫の中には、蛍光や光の吸収からの色ではなく、光の波長をよい具合に反射する微細な構造によって、反射からの色づけがされているらしい。 これを応用して、色あせしない色素材料を作ることもできる。

全体としてインフォマティブな内容なので、文学的な意味の感想はありませんが、テーマにしたがってよくまとまっていて読みやすく、昆虫について包括的に学べる本だと思いました。

2011年10月6日木曜日

科学は捏造を防げるか、再現性の問題。

科学にとって、再現性があるかどうかは重要な問題です。

たとえば超心理学のように学会を持ったり実験をするような組織があったとしても、再現性がないという理由で科学とは見なされません。

再現性がなぜ必要か。
一番大きな理由は、第三者が検証できるようにするためです。

しかし実際の科学では、第三者による再現実験というものはほとんど行われていません。
たとえば科学論文を発表するときには、査読者が論文の中身をチェックしますが、一般的に再現性実験はしないで雑誌に載せられるかどうかを判断します。

ではどういったときに再現性の検証をするかというと、従来考えてきた理論を大きく覆すような結果が発表されたときです。
それ以外の場合だと同じ専門分野の人が同じ実験を行うことで、間接的に再現性のチェックになることもあります。

でも逆に言うと、従来の理論に沿った結果で、同じ専門分野の人が自分と同様の実験をしないならば、データ捏造を行うことができるかもしれません。

たとえばヘンドリック・シェーンという物理学者は、超伝導という物理学の分野でデータ捏造をして、最終的にそれがバレました。

超伝導という現象は、ふつうは温度が極端に低くないと起きないのですが、もっともっと高い温度で超伝導を実現しようという学問的な競争があります。
その競争の中で、いかに高温超伝導を行うかの実験技術が伏せられたり、実験データが出るのは実験者の高度なテクニックのおかげということで、他人は容易に実験を再現できないということが、捏造の隠れ蓑になっていたようです。

さらに言うと、高い温度での超伝導はいずれ誰かが成し遂げるだろうという意味で、従来の理論に沿ったもののようです。

つまり上で書いたような、再現性の検証ができない状況で捏造が行われた可能性があります。

しかし実際には、彼の実験の知識が未熟であったり、またデータ捏造の仕方があまりにもお粗末で、違う実験のはずなのに同じデータが使われたり、データのつぎはぎをしていたので、そういった所から彼の捏造が発覚したようです。

逆に言うと、もし彼がそんなヘマをせずに用意周到に捏造していれば、バレることはなかったのかもしれない。

もしそうなら、再現性というものをいかに確保するか。
もしくは再現性の検証ができない場合に、他の方法でいかに科学の信頼性を保つか、ということが科学にとって重要な問題だと思います。

2011年10月3日月曜日

2011年度ノーベル生理学・医学賞は免疫メカニズムの解明 審良静男は受賞枠外

今日発表された2011年度ノーベル生理学・医学賞は免疫メカニズムを解明した3名に決まったみたいですね。

Jules HoffmannとBruce Beutlerは体に入った微生物を認識する、TollタンパクとToll様受容体(TLR)の発見および機能の解明。Ralph Steinmanは樹状細胞がT細胞化活性化することを発見した功績が認められて、受賞したらしい。

TLRは動物だけでなく、下等植物のコケでも遺伝子が見つかっていて、生き物が体外の微生物などを認識するのに、かなり広く昔から使われてるようです。

さらにTLRは種類によって、DNA、RNA、微生物の外殻などたくさんのものを認識します。病原体がたくさん持っているDNA配列を見分けるなど、センサーとしてかなり広範な範囲をカバーしているようです。

今回のノーベル賞に日本人は入ってなかったみたいですが、この受賞にふさわしいはずの日本人がいます。
上記のTLRについては、日本人の審良静男さんも大きな功績があります。

彼はTLRの機能について次々と発見して、「世界で最も注目された研究者ランキング」で、2004年度に第8位、2005年、2006年度は第1位、2007年度にも第4位に選ばれているらしい。(wiki

今月の日経サイエンスでも審良静男さんの記事があったのですが、とにかくノックアウトマウスを作りまくって手当たり次第に遺伝子の機能を調べるような探索型の手法を取っていて、なんでも先に発表したほうが勝ちという国際的な研究の競争にたけているようです。
反面9時出勤で5時には帰宅するなど、生命科学者としては例外的に、すごく効率がいい働き方をしているらしい。

今回受賞できなかったのは残念ですが、日本人にもすごい人がいるのですね。