2011年11月15日火曜日

『品種改良の世界史・作物編』 鵜飼 保雄, 大澤 良 (編) の感想


品種改良の世界史・作物編品種改良の世界史・作物編
(2010/12/16)
鵜飼 保雄

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本の表紙のデザインや装丁が良く、思わず手に取りたくなります。
現在私たちが日常で食べたり使ったりしている作物が、どのような歴史をたどって行ったかをまとめた本です。作物ごとに章が分かれています。主な記述は、栽培植物の野生種の起源地、その伝播の過程、各国の利用と育種の進展などです。
特に良いところは、イネ、小麦、トウモロコシなどメジャーな作物だけでなく、ソルガム、アワ、ソバ、テンサイ、サトウキビのようなマイナーといえる作物についても詳細に記載されているところです。

本書では栽培植物の起源地を探るための方法として、過去の2人の学者の説が頻繁に引用されます。ひとつはフランスのアルフォンス・ド・カンドルが『栽培植物の起源』で著した説で、栽培種と近縁関係にある野生種の地域がその栽培の起源地であるという説です。たとえばイネなどでは、イネと他の雑草を交雑してちゃんと種がつくかどうか、染色体の対合は正確かなどの情報から、近縁関係が調べられています。もうひとつの説は、旧ソ連のニコライ・イワノヴィッチ・ヴァヴィロフのもので、栽培植物の多様性が高い地域を「多様性中心」と呼び、そこが起源地であるとしたものです。

伝播の過程では、旧アメリカ大陸の存在感に驚かされます。コーヒー、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、トウガラシ、トマトなどが、コロンブス以降西洋を通して世界中に知られ、ジャガイモやトマトのように最初は拒絶されながらも、定着していく様子が分かります。

現在日本で定着している多くの作物の利用が、実は1500年代以降であることが意外に多いことにも気づかされます。ソバは日本固有の食べ物のように思っていましたが、実は生産量はロシアが1位で、その利用の歴史も古く、パンケーキのようにして食べられていたようです。ヨーロッパの他の国でも、ソバパスタやソバクレープ、ソーセージの増量剤などにも使われていたらしい。
アメリカの映画ではよくオレンジジュースを飲んでいる場面をよく見ますが、これはスペイン風邪対策にビタミンCが豊富なオレンジジュースが奨励され、さらに第二次世界大戦のレーションにオレンジジュースの粉末が配られたりして、そういった食育の結果だそうです。

育種技術の進歩は、おおざっぱにいって、良い形質の個体を選抜して植え次ぐ選抜育種から始まって、自殖などを通して形質を固定して純系統を作ったり、メンデル以降は交雑の効果を積極的に利用して新しい形質や、雑種強勢株を作り出していった。さらに細胞培養技術を使ったものや、DNAの発見以降は遺伝子組み替えや遺伝子マーカーを使った育種法が開発されていったという。

ただし、この本の良くないところを挙げると、それは分量と記述の煩雑さです。この本は600ページほどの分量があるが、ヴァヴィロフの説や育種法の紹介など、重複した記述が多い。編著で作物ごとの記述をしているのは分かるけど、もっとまとめて書くことはできたかもしれません。