2012年6月12日火曜日

なぜ分子生物学実験はクソゲーなのかを考えてみた。


・ほとんどの場合、分子生物学の実験をしようとすると単調でしんどい作業が続く。基本的な操作として、遺伝子組換え、電気泳動、PCRなどがあるが、どれも同じように一つの行程でだいたい3時間異常は拘束されるだろうか。とにかく根気がいる。そこで鬱気味なったり、実験が嫌になる人は多いんじゃないかな。
でも一方で僕たちはマリオやドラクエなんかのゲームは平気で毎日何時間もできるし、クリアまでに50時間以上かかることも普通にある。それも自発的に、自分からお金を払ってプレイする。

この違いはどこから来るんだろう。最近はソーシャルゲームやWIiの成功もあるし、ゲーミフィケーションの本もたくさん出ているので、ゲーム性という観点から分子生物学の実験はどのような点がまずいのか考えてみたい。特に基本的な操作である遺伝子組換え実験を中心に見てみたい。

電子実験ノート。wiiUをプレイしながら実験しているようにも見える。
・ひとつはセーブポイントの少なさ。セーブという観点から見ると、実験にもいくつかのポイントがある。目的のDNAを含んだ大腸菌の冷凍ストック、冷蔵庫に保存しておいた電気泳動ゲル、きちんと撮影されたDNA電気泳動の写真、各種バッファーなどの溶液のストックなど。

やっぱり問題なのは電気泳動やPCRの手順にはいろいろ失敗しそうな箇所があるのに、4時間ほどの作業の後にしか実験が成功したか失敗したか分からないところだと思う。
いわばドラクエでセーブ無しで2,3個のダンジョンをクリアしろと言われているようなものだ。

・しかし考えてみると、セーブがないのに何時間もやるゲームはいろいろある。マリオやストリートファイターなどもその一例だ。特にファミコン版のマリオの場合はゲームオーバーになると最初からやりなおさないといけなくなる。 でもなぜマリオはゲームオーバーになっても何度もプレイしようと思うんだろうか。
それはたぶん失敗した原因が自分にあるというのが分かることと、その結果として次はプレイをどう改善すればいいのかを直感的に考えることができるからだと思う。

その点実験においては、失敗したとしてもその原因になりそうな箇所が多いので、失敗を目の当たりにした瞬間、何をやっていいのか分からなくて暗然となることがよくある。例えば試料にコンタミネーションがあったんじゃないか、量を測り間違えたのか、マニュアルに載っていない細かな手順があるんじゃないか、など何をどうしていいか分からなくなってしまう。

実際にはゲームでもそんな場面があるはずなのだが、その時は攻略本を見ることができる。実験における攻略本がまだ標準化されておらず、研究室内の秘伝のようなものがある現状だと、まだまだ改善の余地がありそう。

・こういったことを考えると、ゲームにおいては確実に前に進んでいるという感覚が大事なんだと思う。それはセーブに限らない。セーブがなくても、経験値、熟練、ソーシャルでのつながりといったものがあれば、着実に前に進んでいる感覚になれるんじゃないかと思う。

実験の場合、熟練というものは実験のたびに上がっている感覚はあると思う。しかし明示的な経験値やソーシャルのつながりはほとんど得られない。実験の詳細とその成功失敗の情報がネットに載せることができればソーシャルとしての情報共有に関われるし、失敗したとしても実験をする側も着実にみんなの役に立っていると思えるんじゃないか。あるいは同じ実験をいかに効率よく素早くできるかを計って競うというのはどうだろう。

いずれにしてもいかに情報をネットにあげるかというのがポイントになりそう。面倒くさいことではダメ。
そのために将来使えそうなのが、実験ノートのタブレット化だと思う。すでにタブレット形の電子実験ノートはある。E-NOTEBOOKiPad ELNといったiPadのアプリにもなっているようだ。ペンで紙に書き付けていた実験ノートをiPadのようなものに書き付けることで、その情報をネットで共有しやすくなる。



~他にもコントローラーとしてのピペットや、メニュー画面と棚の配置などについて書きたかったけど、長いので今回はここまで。~

2012年6月10日日曜日

集団生態学の個体数振動モデルについて。

ロトカ=ヴォルテラの方程式

『数学でみた生命と進化―生き残りゲームの勝者たち』カール・シグムンド (著) では集団生態学の数学モデルの章があった。 第一次大戦中のアドリア海では漁が中止されていたために、本来漁で取られていた被食者の魚増え、結果その捕食者のサメも増えたという話を聞いた数理物理学者のヴォルテラが、それを数学で表すことも難なく思いついた。 これは被食者が多くなるとそれに追いつく形で捕食者が増えるが、そのうちに被食者が食べられて減少すると捕食者もまた減少していくという、生物数の振動が追いかけっこするような形を表す。 またこの成果を拡張して、餌を多く食べる・少なく食べる、子供を多く産む・少なく生むの4つの組み合わせで捕食者と被食者の数の関係がどうなるかを表す数理モデルができたという。 そしてどうやらこの振動する関係は、外界の環境やちょっとした変動に反応してどちらがか絶滅するなどが原因で破綻することもありうるようだ。


しかしそれ以外にも被食者捕食者の関係に依存しない形で、生物数が振動するモデルもある。多くの昆虫のように、親が子を産むとすぐ死ぬような生き物では、親子が同じ時代に生きることはない。そうすると親の数が少ない場合は、一個体あたりの栄養が多くなるのでたくさんの子供を産むが、その子供の世代は数が多いので一個体あたりの栄養が少なくて子供が少なくなる。 このような理由で世代ごとに増加と減少の振動が続くモデルがある。