2012年7月11日水曜日

自己増殖する雲のでき方。

雲を見ると、あれはクジラ、これは象、そっちは人間だと思えることがある。雲の形はさまざまに変わるから、生き物にさえ見えたりする。その直感は部分的には正しいかもしれない。

雲も生き物と同じように自己組織化し、自己増殖することがある。
いかに増殖するかの前に、まず一つの雲の一生を見ていこう。

・雲はどうやってできるのか。

それは地表近くの水を含んだ暖かい空気が上昇気流に乗って舞い上がることから始まる。 何がきっかけで上昇するのか。 日光に暖められることもあるし、空気が山を登るように舞い上がることもある。あるいは冷たい寒気が下からやってきて持ち上げられる。

暖かい空気は上空に舞い上がるにつれて、気圧の低さから膨張する。この膨張によってどんどん冷たくなってついに飽和水蒸気の限界まで来る。そして朝の露と同じように小さな水の粒ができてくる。

・なぜその雲が浮かんでいられるか。

水はとても小さく細かい。小さいということは大きいものに比べて表面積が大きくなる。 まるめた紙は表面積が小さく、広げた紙は表面積が大きくなる。そして広げた紙はその大きい表面積のおかげで、ヒラヒラとゆっくり落ちていく。雲が浮くのもそれに似ていて、小さく表面積の大きい水の粒が大きな要因となって、重力に反発することができる。

・ではこの雲からどう雨ができるのか。

雨には暖かい雨と冷たい雨という分け方ができる。雨が降るには雲の中の小さい水の粒が集まって大きな水滴にならないといけない。実に100万倍の体積まで成長する必要がある。
暖かい雨では、特にイオンを含むようなエアロゾルに水がくっつくことで大きく成長する。エアロゾルは火山灰や黄砂のような大気を漂う砂のような粒である。
冷たい雨ではまず雪の結晶ができて、それが溶けることで雨となる。

・さてこれが雲の典型的な一生だが、これがどう自己増殖していくか。

実は雨が地表に降り注ぐに伴って、雲から冷たい下降気流ができる。この冷たい下降気流が雲のとなりまで進出していくと、ちょうど寒冷前線のようにとなりの暖かい空気を押し上げる。
こうして雨が降っている雲のとなりに新しい雲ができあがる。もちろんこの新しい雲も同じようにとなりに雲を作ることができるから、雲がどんどん自己増殖していく。
テーパリングクラウド

実際には増殖する方向が一定で、まるで一列に並んだ騎馬軍団のように横並びになって同じ方向に進んで行くことがある。
さらに風の影響があると、『テーパリングクラウド』という構造ができたりする。これは地上の人には大変気の毒なことに、同じ場所で雲が増殖し雨が降るので、集中豪雨地域のスポットができる。

このように見ていくと、イナゴの大量発生のようにある場所で突然起こって去って行く自己増殖のメカニズムを雲も持っていることが分かる。




参考;Amazon.co.jp: 図解・気象学入門―原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図 (ブルーバックス): 古川 武彦, 大木 勇人: 本

2012年7月7日土曜日

生物を形づくるのは遺伝子か、物理学か。

遺伝子か環境か、という二項対立がある。これは人間のような生き物のどの部分が遺伝子によって決まり、どの部分が環境によるのか、という疑問を表している。ぼくの数学の点数が低いのは遺伝子のせいか、環境のせいなのかと悩む子どももいるだろう。

一方、遺伝子か物理学かという対立も考えることができる。これはどちらかというと説明原理に関する対立で、進化vs物理学とも言える部分がある。

たとえばドール・シープの特徴的な丸まった角の形を見て、生物学者はこの丸まった角が性淘汰から雌を引きつける機能を持ったという説明をするかもしれない。物理学者や数学者ならば、いかにして丸まったかを記述する。具体的には外側の成長速度が内側より低ければ自然と丸まっていく。

進化という説明がよりどころにしている機能というものを解明するのは難しい。足が歩くためにあり、目が光を感じるために機能することは分かるが、機能は常に変化しうるし、どこまでが本当の機能と呼べるのか、数量として調査するにはあいまいさが残る。

たとえば人間の手の機能とはなんだろうか。物をつかむこと?ジェスチャーによって情報を発信すること?キーボードを打つこと? 将来には新たな機能が付加されるかもしれない。

進化よりも具体的な遺伝子という観点から見たときも、同じような問題がある。たとえばハチの巣の構造にはハチが生き残るための機能があるかもしれないが、「ハチの巣を作る遺伝子」があるのだろうか。

実際には「ハチの巣を作るアルゴリズム」はあるだろう。ハチの嗅覚や視覚や運動性、重力に対する傾向やハチ同士の認識といった、遺伝子から、結果としてハチの巣ができあがるだろう。
でも、それはハチの巣を作る遺伝子といえるのだろうか。

こういったことを踏まえると、少なくとも生き物の形態を考えるときには、その物理的な形態生成の過程も含めて考えないといけないようだ。