2012年12月30日日曜日

BBCのタイムライン記事はニュースの日付を調べるのに便利

海外の新聞や雑誌記事、ノンフィクションの本を読んでいると、しつこいぐらいに日時や場所を書き連ねていることに気づく。海外の著者たちは、こういった日時や場所の情報をどこでゲットしているのか。たぶんBBCタイムライン(timeline)がその一つだろう。

BBCのタイムライン項目を知ったのは、ジョージソロスの"The New Paradigm for Financial Markets Large Print Edition: The Credit Crash of 2008 and What it Means"(日本版は『ソロスは警告する 超バブル崩壊=悪夢のシナリオ』)がきっかけ。全部は読まなかったが、サブプライムローンの経緯を説明する章の中で、やたら詳細に日時や場所、人の情報が書かれていることに気づいた。注釈を調べてみるとサブプライムローンのタイムライン記事(BBC NEWS | Business | Timeline: Sub-prime losses)に突き当たった。


タイムライン記事は、2行ほどのニュースの説明文と、その日付順にずらっと並んでいるページだ。それぞれのニュースにリンクが付いていることも多い。
サブプライムローンのページでは、2007年2月22日に大手住宅ローン貸し付け会社のトップがクビになった記事から始まって、2008年5月15日にBarclaysが資産の評価損を出した日までのニュースを、事細かにカバーしている。これを見ると、サブプライムローンに関して当初は楽観的な発表をする金融当局が後手後手に回っていくさまを追うことができる。

そこで分かった。これは論文やブログ記事なんかのソースに使える。日時を元に何が起きたかを調べてもいいし、逆にここから日時や場所など詳細な情報を得ることもできる。感想文や批評的な記事が多い日本のブログ空間の中でも、精確な情報で差をつけることができそうだ。


実は他にも3.11の福島原発事故や、国ごとの歴史に関するタイムライン記事もある。
原発事故のタイムライン(BBC News - Timeline: Japan power plant crisis)では、一刻を争う事件だけあって、日付よりも何時何分に何が起こったかを時系列で並べている。

国に関するタイムラインは、その国に関するいくつかの項目の一つだ。基本的には各国ごとにoverview、fact、leader、media、time lineの項目がある。一見ウィキペディアに近い構成だが、ウィキペディアはどちらかというと読み物という趣が強い。こちらは資料という感じがする。
たとえば今さかんに報道されているシリアの動向は、遠い国ということもあって、いまいち分かりづらい。単発のニュースだけではどういう流れで事件が起こったのかが詳しくは分からない。そういうときに使えるのは、国の歴史に関するのタイムラインだろう。

他にも良いのがmediaという項目だ。ここではその国の主要な報道、テレビ、ラジオ、通信社の情報とそのウェブサイトへのリンクが張ってあるので、このリンク先をもとに、さらに詳しく国について調べることができる。

ただ残念なのは、タイムラインのまとめページのようなものが見あたらないこと。だからわざわざ目的の国や事件のページからタイムラインを探さないといけないように見える。どこかにまとめページが隠れているのだろうか。

2012年12月8日土曜日

なんと、ジュラシックパークのヴェロキラプトルはゴジラのようなリアルな着ぐるみだった。

リアルなCGを使った映画の先駆けとなったジュラシックパーク。当時はそれまで見たこともないような恐竜の動く姿が本当に衝撃的だった。しかし実はこの映画、当初は小さなミニチュアのコマ撮りと、実物大の動く機械模型(アニマトロニクス)で製作される予定だった。スピルバーグが製作途中にCGで作った恐竜たちに感激して、すぐさまコマ撮り路線からCGを使うことになったという。

それでもこの映画には製作当初の名残が点々と残っている。車を襲うティラノサウルスはほとんどの場面でCGではなくてアニマトロニクスが使われていた。
しかし、今回初めてStan Winston School of Character Artsで公開されたジュラシックパーク製作過程のビデオを見て驚いた。映画の中のある特定の場面では、CGでもアニマトロニクスでもなくヴェロキラプトルの着ぐるみの中に人が入って演技していたのだ。ということは、実はジュラシックパークはゴジラと同じ領域でもチャレンジしていたということになる。そのビデオがそれだ。




中はこんな感じ。人がヴェロキラプトルの首から下にすっぽりと入り込んで、足だけ出している。ラプトルの頭部と人の肩がつながっているのは、首を操作するためかもしれない。
でもこんな体勢で恐竜になりきるには、絶対にしんどいに決まってる。実際この中に入って恐竜の演技をしていたStan Winston Studioのスーパーバイザー、John Rosengrantは、何週間もの練習で腰に来ていたようだ。


最初はこうやってゴミ袋テスト(Garbage Bag Test)と呼ばれるごく簡単な発泡体で作ったものを被って感じをつかみつつ恐竜の演技練習もしていた。これくらいなら恐竜コスプレとして作れそうだが、なんともみすぼらしい姿のラプトル。ちなみに恐竜のあの独特体勢はスキーの時の姿勢を参考にしたらしい。
それでも楽しそうに動き回っていたづらを仕掛けるラプトルが見れる。



最終的にはこんなにリアルになってしまう、スタンウィントンスタジオの実力。歩くときに首が鳥のようにヘコヘコ動いたり、かみつくこともできるようになった。映画でも印象的なヴェロキラプトルのどう猛目つきもしっかりとある。


着ぐるみラプトルが活躍した実際のシーンはここ。キッチンに逃げ込む子どもたちを探してドアを開け、伸び上がりながら甲高く咆哮するシーン。実際の出番は15秒ほどだったらしいけども、着ぐるみの中にはRosengrantが入って演技をしている。


ゴジラをはじめとする日本の怪獣映画のお家芸である着ぐるみ。そこにジュラシックパークがリアルなCGを駆使して追い抜いたと思っていた。しかしこうなってくると、ジュラシックパークはCG映画の先駆けというだけにとどまらず、着ぐるみでの特殊メイクという意味でもチャレンジをしていたことが分かる。
今後ハリウッドで予定されている新しいゴジラのリメイクにも期待しているが、できることならハリウッドが総力を挙げて、CGよりむしろ着ぐるみでどこまですごいゴジラが作れるかチャレンジしてくれたら最高だが。

2012年11月14日水曜日

ハープ状の肉食深海生物が発見された。


・カルフォルニアの深海に転々とたたずむハープ、もしくはニューヨークのブルックリン橋を思い起こすような生き物。
この海綿動物の名は Chondrocladia lyra と言い、他の近縁と違って、フィルターで小さな静物を濾し取るというよりは、棒の部分のかぎ爪やトゲで小さな甲殻類を引っかけてから消化するのが特徴だという。

ハープのような形は生物によくあるように表面積を最大にするためだと考えられているという。表面積最大化といっても肺胞や毛髪のようにいろいろな形がありうるが、このハープは毛髪ほどには枝が多くない。
これは深海という栄養が少ない環境ではそこまでの表面積は必要ないということなのだろうか。それとも消化器官や生殖器と一体化しているので、太くならざるを得ないのか。

ハープの下には植物の根のようなものがあり、これで体を支えているのだろう。

・その生殖のかたちもおもしろい。長い棒の上には小さな球が付いているが、ここで精子が作られ蓄えられている。
棒の中間ほどにあるふくらみの部分には卵がある。しかしこの卵がどのように排出されるのか、またどのように新しい個体が発生するのかといったことは調べてみても分からなかった。
これからの研究によるのかもしれない。
しかし全体の形を見ると、中央が大きく端に行くほど小さくなっているので、真ん中部分から徐々に広がっていくように成長するようにも思える。

生態系の中でどのような位置づけなのかも気になる。小さな動物を食べるこの生き物も、他の生物に食べられるのだろうか。
ちなみに深海の水はとても冷たいのでDNAが分解される前に抽出することができるという(Bizarre New Deep-Sea Creatures Found Off Antarctica)。その意味では月より遠いと言える深海にも研究上の有利な部分がありそう。



・このような珍しい海綿動物が近年たくさん発見されているという。左の大きな玉を持つ生き物も最近発見された 
Chondrocladia lampadiglobus という海綿動物(Scientists describe extroardinary new carnivorous sponge

ところで海綿動物は英語でspongeと呼ばれる通り、元来はスポンジとして利用されてきたという。 ハープ状のスポンジはもしかして結構便利かもしれない。

source:New deep sea carnivorous harp sponge is unlike anything ever seen,
Scientists describe extroardinary new carnivorous sponge

2012年9月4日火曜日

トウモロコシの花粉はどうやって出来るのか。低酸素濃度がスイッチ。

2012年7月20日号のScience誌で興味深い論文が。

よく知られているように、動物は精子、植物は花粉という生殖細胞を作る。
動物の場合は早い段階から特定の生殖細胞ができている。植物の場合は葯の中のごく普通の体細胞が生殖細胞へと変化する。
だが、何がきっかけでこの変化が起こるのかはこれまで謎であった。



・本誌の載った論文「Hypoxia Triggers Meiotic Fate Acquisition in Maize」 Timothy Kelliher and Virginia Walbot によると、トウモロコシの葯の中で体細胞から生殖細胞へのスイッチとなるのは酸化状態の勾配だという。

この号には解説のページもあった。Clinton Whippleのような専門家からすると、驚きなのはそのスイッチが親から子へ伝達されるようなものではなく、単純に環境的な要因だということらしい。
単に細胞内で酸化状態が低いところに生殖細胞ができる。トウモロコシの葯は外界の空気から閉ざされている。だから典型的な例では葯の内側に生殖細胞ができる。

またこの論文ではいくつかの実験の結果を踏まえて、葯内部の酸化状態と遺伝子がどのように相互作用して生殖細胞を作るのかは、以下のような3つの流れだとしている。

① トウモロコシの葯の中に酸化還元状態の勾配ができる。通常は中心部が酸化状態が低く、外側に行くほど酸化勾配が強くなる。

② 低い酸化状態によって male sterile converted anther1 (MSCA1) タンパク質が活性化されて、細胞を生殖細胞に分化させる。

③ 葯の中心部に出来た生殖細胞が、 multiple archesporial cells1 (MAC1) を放出して、周りの体細胞がこれ以上生殖細胞にならないようにする。


・これを見ると、ハチの巣の中で多くのハチの中から女王蜂が選ばれる過程に似ているような気がする。女王蜂になれるのは、メスのハチの中でもローヤルゼリーを食べたものだけだ(ミツバチの女王蜂分化を誘導する因子ロイヤラクチンの発見)。
そのとき他のメスがこれ以上女王蜂にならないような抑制ホルモンをばらまくらしい。それによって、たった一つの生殖のためのハチと、それを支える数多くの働きバチを区別する。(ミツバチ社会のカースト制を維持する制御物質の探索

具体的にどうやって一個体だけを選んでローヤルゼリーを与えるのかは調べても分からなかった。しかし流れは似ている。
トウモロコシの葯の場合、ある一つの中心的な生殖細胞ができると、その細胞自身が抑制物質を出して、これ以上生殖細胞ができないようにする。
この共通した仕組みは、チューリングの考えた反応拡散系の一種だと言えるだろうか。


・さらに考えると、酸化の勾配がどのようにできたのかが気になる。というのも、酸化は外界の空気から来たもの以外に、細胞内部の生化学反応からも発生しそうだから。細胞自身の活動も考えたときに、植物組織内でこのような単純な勾配ができるものだろうか。

この疑問に対して、実験では直接葯の中の酸化還元勾配を調べてはいなかった。その代わりに植物組織に酸素や還元剤を与えたときに、植物組織の内側と外側のどちらに生殖細胞ができやすいかで、勾配のできやすさを調べたようだ。

また推測として、葯の中心部のほうが代謝が早いために酸素濃度が低くなっているかもしれないとしている。


・実験の後半では、実際に酸素や窒素を使って、表皮細胞に生殖細胞を作ったりと、人工的に生殖細胞の位置の操作や促進、抑制を行っていた。

このような人工的な葯形成の操作は、いまだに多くの人が手でふさを取り除く作業を強いられているトウモロコシのハイブリット種子産業などで、応用につながるかもしれない。


参考URL:
Stanford researchers solve plant sex cell mystery
Stanford researchers solve plant sex cell mystery
Hypoxia Triggers Meiotic Fate Acquisition in Maize
Transcriptome profiling of maize anthers using genetic ablation to analyze pre-meiotic and tapetal cell types

画像URL:
Maize tassel with anthers emerging credit:CIMMYT / Flickr

2012年8月30日木曜日

南極の湖底にたたずむ『コケ坊主』とは何なのか。

日経サイエンス2012年10月号で、『コケ坊主』の紹介があった。南極でコケの研究がなされているのは少しは知っていたが、具体的に何を調べているのかは知らなかった。
コケ坊主


・このコケ坊主、まずは形に特徴がある。まるで山やストロマトライトのように、丸いものが突出している。実は場所によってはとんがったものもあるらしい。

”コケ坊主を構成しているのは主にナシゴケ属(Leptobryum)のコケで,これに一部,ハリガネゴケ属(Bryum)のコケが混ざってできている。直径30〜40cm,高さが最大で80cmほどの柱のような構造物” (南極湖底の「コケ坊主」〜日経サイエンス2012年10月号より | 日経サイエンス)。
普段地上で見慣れているコケは樹の枝や地面、コンクリートにへばりついているのに対し、コケ坊主はコケが独自に集まり山のようになっている。


・どうして南極の湖にこんなものが?


”組織・器官分化が不十分で,ガス交換・水の吸収を体の表面全体で行うという特徴によるものであろう.ただし,熱帯・温帯の水中では藻類の付着を受けてしまうためにほとんど自然界での水生のコケは見つからない.水生のコケ植物が多いのは,主に高山や亜寒帯以北の冷涼な小川,湖沼中である.これらでは貧栄養や低温のため藻類の繁殖が弱く,コケ植物が場合によっては湖底や河床一面を覆っていることも知られている.”
”ほとんど水の動揺のない湖沼中で成長するコケ群落が,光を求めて上に成長してゆくためだと考えられる.南極湖沼底の「コケ坊主」
ということらしい。つまり栄養が少ないので他の植物にあまり邪魔されずにコケがここまで繁殖できるということのようだ。
ただ気になるのは、コケがこんなに大きくなるのはこの種のコケの特徴なのか、競合する他の植物が少ないから自然とこうなるのか。ここら辺がよく分からない。


・さて、この南極の湖にどれほど栄養が少ないか。日経サイエンスの記事によるとなんと5ヶ月以上も日光がろくに当たらない時期があるらしい。コケのみならず、その周りにもクマムシや線虫などいろいろな生き物がいるが、このような環境だから半ば周囲から孤絶しているようだ。そんな環境に耐えて生き続けるためにはどうやって栄養を得ればいいのか。

そういったコケ坊主をめぐる生態系を調べた「国立遺伝学研究所 南極湖底のコケ坊主生物圏におけるルビスコ遺伝子の多様性」という研究がある。
コケ坊主の中に、光合成の中心的な役割を持っているルビスコの遺伝子を調べてみたらしい。

その結果、
”光合成を行うラン藻(シアノバクテリア)由来のルビスコ遺伝子と同じくらいの頻度で化学合成細菌由来のルビスコが検出され、さらにコケ坊主の内外上下に広く分布していることが分かりました(下図)。化学合成は光合成と同様にカルビン・ベンソン回路でCO2を固定しますが、そこでは光エネルギーではなく無機物の酸化に伴う「化学エネルギー」が使われます。”
のように光合成とともに化学合成がかなり多くなされていることが分かった。ルビスコの量的には全体の半分近くが化学合成のものになっている。

ただし分からないのは、光が当たらない期間、従属栄養の生き物はこの化学合成細菌による栄養を利用するのだろうが、コケ坊主単体はどのように生きているのかという点。コケ坊主のコケはごく少量の光エネルギーだけで生きていけるということなのか。
調べることができればまた記事を書いてみたい。

画像参照:国立遺伝学研究所 南極湖沼底の生物共同体「コケ坊主」の真核微生物コミュニティー解析

2012年8月20日月曜日

氷でできた針の山ペニテンテって?


枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン
(2012/02/23)
フィリップ ボール

商品詳細を見る


ペニテンテ1最近 フィリップ ボール (著)「枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン」 を読んでいて「ペニテンテ」というものを知った。


この異様な光景、まるで地獄の針の山にも見える。針の山は雪が固まったもので出来ている。







[地面から突き出した氷の剣林、「ペニテンテ」 : カラパイア]によると、
"ペニテンテは、イギリスの自然科学者でもあり卓越した地質学者であったチャールズ・ダーウィンが1839年に書いた文献に記されたのが最初の記録だという。ダーウィンは1935年3月22日に、南米チリのサンティアゴからアルゼンチンのメンドーサに向かう途中、スコプス山の峠近くの雪原でペニテンテを目撃した"
ということらしい。

しかしどうやってこんなものが出来たのか。実はこれを見た時には、てっきり下から成長してこのような針の形になったのかと思っていた。山が積もるポジティブフィードバックと山を削るネガティブフィードバックの兼ね合いかと。

でも実際のところこの構造は、元々雪が積もっていたところに太陽光が浴びせられて溶けることで作られるようだ。いわば山ではなく谷が出来る形だ。そう思ってみると、針の形はまっすぐとんがっているというよりは、何かがえぐれて出来た板状の氷にも見える。

他の場所でこのような構造を見ることができないのは、その気象条件にある。常に気温が氷点下であり、太陽光で溶けた氷が水にならずに直接気体化するという昇華が起きないといけない。
といっても、まだいまいち釈然としない。でも本ではすでに研究者が実験で同じ現象を再現しているようだし、冷凍庫強い光を当てれば一般の人でも再現できるようにも思えるが、どうだろう。

もう一つ気になったのはその大きさ。

人間と比べてみると氷の針はかなり大きいことが分かる。
上にも書いたように、太陽光が集まって溶けた氷の谷の集まりがペニテンテだが、どうしてこのような間隔で溶けたんだろう。
氷の集光範囲がこの大きさなのか。よく分からない。


2012年7月11日水曜日

自己増殖する雲のでき方。

雲を見ると、あれはクジラ、これは象、そっちは人間だと思えることがある。雲の形はさまざまに変わるから、生き物にさえ見えたりする。その直感は部分的には正しいかもしれない。

雲も生き物と同じように自己組織化し、自己増殖することがある。
いかに増殖するかの前に、まず一つの雲の一生を見ていこう。

・雲はどうやってできるのか。

それは地表近くの水を含んだ暖かい空気が上昇気流に乗って舞い上がることから始まる。 何がきっかけで上昇するのか。 日光に暖められることもあるし、空気が山を登るように舞い上がることもある。あるいは冷たい寒気が下からやってきて持ち上げられる。

暖かい空気は上空に舞い上がるにつれて、気圧の低さから膨張する。この膨張によってどんどん冷たくなってついに飽和水蒸気の限界まで来る。そして朝の露と同じように小さな水の粒ができてくる。

・なぜその雲が浮かんでいられるか。

水はとても小さく細かい。小さいということは大きいものに比べて表面積が大きくなる。 まるめた紙は表面積が小さく、広げた紙は表面積が大きくなる。そして広げた紙はその大きい表面積のおかげで、ヒラヒラとゆっくり落ちていく。雲が浮くのもそれに似ていて、小さく表面積の大きい水の粒が大きな要因となって、重力に反発することができる。

・ではこの雲からどう雨ができるのか。

雨には暖かい雨と冷たい雨という分け方ができる。雨が降るには雲の中の小さい水の粒が集まって大きな水滴にならないといけない。実に100万倍の体積まで成長する必要がある。
暖かい雨では、特にイオンを含むようなエアロゾルに水がくっつくことで大きく成長する。エアロゾルは火山灰や黄砂のような大気を漂う砂のような粒である。
冷たい雨ではまず雪の結晶ができて、それが溶けることで雨となる。

・さてこれが雲の典型的な一生だが、これがどう自己増殖していくか。

実は雨が地表に降り注ぐに伴って、雲から冷たい下降気流ができる。この冷たい下降気流が雲のとなりまで進出していくと、ちょうど寒冷前線のようにとなりの暖かい空気を押し上げる。
こうして雨が降っている雲のとなりに新しい雲ができあがる。もちろんこの新しい雲も同じようにとなりに雲を作ることができるから、雲がどんどん自己増殖していく。
テーパリングクラウド

実際には増殖する方向が一定で、まるで一列に並んだ騎馬軍団のように横並びになって同じ方向に進んで行くことがある。
さらに風の影響があると、『テーパリングクラウド』という構造ができたりする。これは地上の人には大変気の毒なことに、同じ場所で雲が増殖し雨が降るので、集中豪雨地域のスポットができる。

このように見ていくと、イナゴの大量発生のようにある場所で突然起こって去って行く自己増殖のメカニズムを雲も持っていることが分かる。




参考;Amazon.co.jp: 図解・気象学入門―原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図 (ブルーバックス): 古川 武彦, 大木 勇人: 本