2012年3月26日月曜日

簡単に生命を作り出す、コンウェイのライフゲーム


数学でみた生命と進化―生き残りゲームの勝者たち (ブルーバックス (B-1111))数学でみた生命と進化―生き残りゲームの勝者たち (ブルーバックス (B-1111))
(1996/03)
カール・シグムンド

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最近、カール・シグムンド (著)『数学でみた生命と進化』の古本を買って読んだ。1996年に初版が出たらしく古い内容だけど、それゆえにこの時期の進化学がどうなっていたか分かる。特にコンピュータを使ったシミュレーションは現在から見るとかなり初歩的に見える。
この本では生命のシミュレーションとして、コンウェイの「ライフゲーム」が紹介されていた。これはまだパーソナルコンピュータもそこまで普及していない時代で、仕事そっちのけでエンジニアやオフィスワーカーがハマっていたというゲーム。ルールは、白いセルの周辺に3つの黒いセルがあるとそのセルも黒くなり、黒くなったセルは周辺に2つか3つの黒いセルがあると黒いまま、それ以外だとふたたび白に戻る。
メカニズムは単純だけども、複雑系の要素としての正のフィードバックと負のフィードバックの相互作用によってどんどんドットの形が変化する。初期状態のほんの少しの変化が結果に大きく影響を及ぼすという意味でカオスでもある。実際にやってみると、単に直線を描いただけでも、結果としてとても複雑な動きや幾何学模様などが見えてくる。さらに左右非対称にしてみるとさらに複雑さが増す。

その動きは確かに生命に見えなくもないが、『自己組織化の経済学―経済秩序はいかに創発するか』 ポール・クルーグマン (著) の覚え書きの記事で取り上げた空間経済学のビジュアル版にも見える。ただしクルーグマンの言う都市集積は、あまり初期条件に依存しないでどのように初めても同じような形状に収束していったけど。

wikipediaによると、このライフゲームでも動きが変化しながらも周期的に同じ形を繰り返す形が発見されている。特に周期が3ステップ以上で複雑な形では以下のものがある。
パルサー八角形銀河ペンタデカストロン
さらに「生きたセルの数が無限に増えつづけるパターンはありうるか」という証明を、開発者のコンウェイ自身が懸賞金を賭けて一般に募集したところ、下のようなグライダー銃などがその一例であることが分かったという。

いずれにしても暇つぶしにもなるし、見ていて飽きないこのゲーム。個人的には少ないブロック数を少しずつ変えていってどう結果が変化するのかを見るのがおもしろい。


そのままスタートするとグライダー銃となります。いったんクリアを押して自分でいろんな形を作りスタートを押すと、それが動き出します。

2012年3月11日日曜日

切りたい場所のDNAを切れるオーダーメイドのハサミ、gene editing(ジーン・エディティング)

ある遺伝子を取り除いたり他の生き物の遺伝子を組み込むためにはDNAを切り貼りする酵素が必要です。DNAを切り取るハサミとしてよく使われるのは制限酵素です。でも制限酵素は基本的に回文構造になっているDNA配列の部分しか認識してくれません。回文はたとえば「しんぶんし」や「たけやぶやけた」みたいに前から読んでも後ろから読んでも同じになるような文です。
制限酵素でDNAを切りたいとき、ちょうど切り取りたい場所に回文配列があればいいのですが、実際にはその場所が少なすぎたり多すぎたり、また仕方ないので余分な部分を残したまま切断するしかなかったりします。

ではオーダーメイドのように狙った場所できちんと切断できるものはないのかな、と思ってたらそれがあります。

「gene editing(ジーン・エディティング)」という方法は、いままでの制限酵素ではなくzincフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)などを使います。このzincフィンガーはいくつかのDNA配列を一組でとして認識してくっつく性質があるので、zincフィンガータンパク質をつなげて狙ったDNA配列だけにくっつくようにすれば、あとはその場所を切断できます。
zincフィンガーヌクレアーゼを使ったジーン・エディティングは2011年の時点でヒトのHIV患者の臨床にも使われています。患者のCD4+ T細胞を取り出して、その細胞に入っているHIV感染の要因を作るCCR5遺伝子を壊し、再びT細胞を患者の体に戻すと6人中5人で免疫機能が上昇したそうです。
しかしzincフィンガータンパク質はちゃんとDNAにくっつくようにするのが難しかったり欠点もあるとのこと。

そこで新しい酵素としてtalens(transcription activator like effector nucleases)を使う方法が考えられています。この酵素はzincフィンガーと違ってDNAの配列を一ずつ認識でき、酵素同士をつなげた場合でも相互作用が少ないだから文字どおりオーダーメイドで思った通りの配列を認識できるハサミが作れることになります。ただし現状では酵素を作るのが難しかったりするみたいですが。

いずれにしても既製品としての制限酵素の役割が、すぐにジーン・エディティングに完全にとって変わられることはないでしょう。いちいちオーダーメイドで酵素を作成するよりは、DNA配列を調べてそれに合う制限酵素を冷凍庫から取り出した方が楽だからです。ですが服と同じようにニッチの要求に応えるためにはオーダーメイドはなくてはならない手段ですから、今後に期待です。

参考ウェブサイト:Targeted gene editing enters clinic