2012年8月30日木曜日

南極の湖底にたたずむ『コケ坊主』とは何なのか。

日経サイエンス2012年10月号で、『コケ坊主』の紹介があった。南極でコケの研究がなされているのは少しは知っていたが、具体的に何を調べているのかは知らなかった。
コケ坊主


・このコケ坊主、まずは形に特徴がある。まるで山やストロマトライトのように、丸いものが突出している。実は場所によってはとんがったものもあるらしい。

”コケ坊主を構成しているのは主にナシゴケ属(Leptobryum)のコケで,これに一部,ハリガネゴケ属(Bryum)のコケが混ざってできている。直径30〜40cm,高さが最大で80cmほどの柱のような構造物” (南極湖底の「コケ坊主」〜日経サイエンス2012年10月号より | 日経サイエンス)。
普段地上で見慣れているコケは樹の枝や地面、コンクリートにへばりついているのに対し、コケ坊主はコケが独自に集まり山のようになっている。


・どうして南極の湖にこんなものが?


”組織・器官分化が不十分で,ガス交換・水の吸収を体の表面全体で行うという特徴によるものであろう.ただし,熱帯・温帯の水中では藻類の付着を受けてしまうためにほとんど自然界での水生のコケは見つからない.水生のコケ植物が多いのは,主に高山や亜寒帯以北の冷涼な小川,湖沼中である.これらでは貧栄養や低温のため藻類の繁殖が弱く,コケ植物が場合によっては湖底や河床一面を覆っていることも知られている.”
”ほとんど水の動揺のない湖沼中で成長するコケ群落が,光を求めて上に成長してゆくためだと考えられる.南極湖沼底の「コケ坊主」
ということらしい。つまり栄養が少ないので他の植物にあまり邪魔されずにコケがここまで繁殖できるということのようだ。
ただ気になるのは、コケがこんなに大きくなるのはこの種のコケの特徴なのか、競合する他の植物が少ないから自然とこうなるのか。ここら辺がよく分からない。


・さて、この南極の湖にどれほど栄養が少ないか。日経サイエンスの記事によるとなんと5ヶ月以上も日光がろくに当たらない時期があるらしい。コケのみならず、その周りにもクマムシや線虫などいろいろな生き物がいるが、このような環境だから半ば周囲から孤絶しているようだ。そんな環境に耐えて生き続けるためにはどうやって栄養を得ればいいのか。

そういったコケ坊主をめぐる生態系を調べた「国立遺伝学研究所 南極湖底のコケ坊主生物圏におけるルビスコ遺伝子の多様性」という研究がある。
コケ坊主の中に、光合成の中心的な役割を持っているルビスコの遺伝子を調べてみたらしい。

その結果、
”光合成を行うラン藻(シアノバクテリア)由来のルビスコ遺伝子と同じくらいの頻度で化学合成細菌由来のルビスコが検出され、さらにコケ坊主の内外上下に広く分布していることが分かりました(下図)。化学合成は光合成と同様にカルビン・ベンソン回路でCO2を固定しますが、そこでは光エネルギーではなく無機物の酸化に伴う「化学エネルギー」が使われます。”
のように光合成とともに化学合成がかなり多くなされていることが分かった。ルビスコの量的には全体の半分近くが化学合成のものになっている。

ただし分からないのは、光が当たらない期間、従属栄養の生き物はこの化学合成細菌による栄養を利用するのだろうが、コケ坊主単体はどのように生きているのかという点。コケ坊主のコケはごく少量の光エネルギーだけで生きていけるということなのか。
調べることができればまた記事を書いてみたい。

画像参照:国立遺伝学研究所 南極湖沼底の生物共同体「コケ坊主」の真核微生物コミュニティー解析

2012年8月20日月曜日

氷でできた針の山ペニテンテって?


枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン
(2012/02/23)
フィリップ ボール

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ペニテンテ1最近 フィリップ ボール (著)「枝分かれ: 自然が創り出す美しいパターン」 を読んでいて「ペニテンテ」というものを知った。


この異様な光景、まるで地獄の針の山にも見える。針の山は雪が固まったもので出来ている。







[地面から突き出した氷の剣林、「ペニテンテ」 : カラパイア]によると、
"ペニテンテは、イギリスの自然科学者でもあり卓越した地質学者であったチャールズ・ダーウィンが1839年に書いた文献に記されたのが最初の記録だという。ダーウィンは1935年3月22日に、南米チリのサンティアゴからアルゼンチンのメンドーサに向かう途中、スコプス山の峠近くの雪原でペニテンテを目撃した"
ということらしい。

しかしどうやってこんなものが出来たのか。実はこれを見た時には、てっきり下から成長してこのような針の形になったのかと思っていた。山が積もるポジティブフィードバックと山を削るネガティブフィードバックの兼ね合いかと。

でも実際のところこの構造は、元々雪が積もっていたところに太陽光が浴びせられて溶けることで作られるようだ。いわば山ではなく谷が出来る形だ。そう思ってみると、針の形はまっすぐとんがっているというよりは、何かがえぐれて出来た板状の氷にも見える。

他の場所でこのような構造を見ることができないのは、その気象条件にある。常に気温が氷点下であり、太陽光で溶けた氷が水にならずに直接気体化するという昇華が起きないといけない。
といっても、まだいまいち釈然としない。でも本ではすでに研究者が実験で同じ現象を再現しているようだし、冷凍庫強い光を当てれば一般の人でも再現できるようにも思えるが、どうだろう。

もう一つ気になったのはその大きさ。

人間と比べてみると氷の針はかなり大きいことが分かる。
上にも書いたように、太陽光が集まって溶けた氷の谷の集まりがペニテンテだが、どうしてこのような間隔で溶けたんだろう。
氷の集光範囲がこの大きさなのか。よく分からない。