2011年12月14日水曜日

酵母の多細胞化?『実験進化学』の最近の成果

今週出た11月18日号のscience誌では、実験進化学の記事がありました。実験室で酵母を多細胞に進化させたという触れ込みなので、ちょっと期待して読んでみました。
実験進化学は主に微生物が対象で、特定の環境負荷と選別によって実際に生物を進化させることで、進化について研究する分野です。人類は長い歴史の中ですでに栽培植物や家畜など、意図的に種の形質を変化させています。実験進化学は主に微生物を使って、それをもっと短いスパンで行うことに特徴があると言えると思います。
記事では実験進化学の最近の成果として、3つの研究が挙げられていました。

1つ目はGraham Bellが行った研究で、藻類に光を当てない環境に置いて選別をし続けたところ、光に頼らないで生きられるものができたそうです。いろいろな経路で変化した個体がいて、それらがどのように変化していったかを追跡して行ってもっと詳細が分かれば、生物が遺伝的・機能的にどのような経緯をたどって進化して行くかが分かるかもしれません。

2つ目はAneil Agrawalの、なぜ性が存在するかを問う研究です。
agrawal
ワムシという微少な動物は有性生殖と無性生殖をスイッチできます。このワムシ達を、エサの栄養分が一定の環境と、栄養分を変動させた環境に分けて置き、有性と無性の個体の割合を調べたそうです。そうすると環境が変動した場合に有性が多くなり、環境が一定になると有性が減っていったということです。
この結果から、有性生殖は環境変化への適応という意味でメリットがあるという説を補強できるかもしれません。

僕としては、この実験からはまだまだそのような確定的なことは言えないと思います。エサの栄養による環境変化という側面でしか見ていないですし、たとえば栄養が変動することで代謝が変わって、有性と無性の割合に変化があっただけかもしれません。
性が存在するメリットとして、遺伝子をオスとメスで混ざり合うことで環境への適応度が高くなるという説がありますが、無性生殖の場合も分裂した時の変異で環境への適応度が高くなります。したがって、有性生殖ではオスとメスが出会って子を産むことの非効率さのコストと環境適応などのメリットの兼ね合い、無性生殖では遺伝的単一性の環境変化への危うさと増殖の早さのメリットの兼ね合いがあって、有性生殖の方がより有利であるなら有性が選ばれるのかもしれません。もしそうなら、どの程度の環境変化で有性生殖が有利になるのかが本当に知りたいところです。

3つ目はWill Ratcliffによる酵母の多細胞化の研究でした。
Ratcliff
まず選別の基準として大きな酵母が生き残るように設定し、そのような大きな酵母を選び取るために酵母の入った培養液をしばらく放置して下に溜まった1%を選び、さらに大きくなると遠心分離器で分離して大きな個体を選別していったらしい。その結果、普通は酵母同士がバラバラに分離するのに、バラバラになるための酵素がなくなり、これらの酵母は互いに接着してクラスターを形成していったという。大きな酵母が生き残るという選別の結果、酵母同士がかたまることでもっと大きくなったと解釈できそうです。
素人目には、単に互いにくっつくようになっただけに見えなくもないですが、このような単純な実験で意図的に選別することで多細胞化のような変化が起きたことが注目に値する所らしいです。

多細胞生物の特徴というと細胞が集まるということも重要ですが、もっと重要な側面は細胞同士の分業だと思います。つまり多細胞生物では生殖細胞がすべての体細胞を作り出し、体細胞がそれぞれ機能を分化していくという側面です。
ですからもしも実験室で意図的に選別を行って、細胞の分業をも作り出すことができたとしたらそれこそすごいと思います。また、環境の変動という意味では、他の生物や同種の細胞との競争という側面を実験室で再現するということができれば、さらに選別の方法が広がると思います。
現状ではまだその端緒といったところなのでしょうか。

こういった進化を意図的に引き起こして研究するという試みは、遺伝子組み換え技術を補間するという意味で重要だと思います。遺伝子組み換えはあくまでも遺伝子の切り貼りであって、細胞内の他のタンパク質との相互作用や、細胞特有の情報伝達をそのままに、単に他から遺伝子を導入しているというのが現状だと思います。一方進化というのは、小さな変異を環境への適応を通じて、全体を少しずつ微調整していく過程です。だから、遺伝子を導入した後に細胞や組織内でどのようにそれを定着させていくか、あるいは変異を通じていかに生物に目的の遺伝子型を持たせるかということに、この学問の知見は使えるかと思います。

参考ウェブサイト:This Week in Evolution R. Ford Denison

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