2011年12月22日木曜日

Natureに載った鳩山由紀夫の記事:福島原発の国有化

Nature 12/15
今週出た12月15日(No.7377)号のNatureに民主党の鳩山由紀夫氏と平智之氏が投稿した記事がありました。実はこの号の表紙はそれを特集したもので、日の丸をバックに黒塗りされた手順書の写真となっています。

鳩山氏や平氏らは原発事故後、Bチームというものを立ち上げて、事故収束のためにいろいろな提言をしていこうという運動をしているようです。なぜ福島原発の国有化が必要かと言うと、情報開示が主な目的であるようです。
現在でも福島原発の事故がどういう経緯で起きて、どういう状態になっているかが明らかになっていません。例えば炉内の核反応は今も続いているのか、爆発が起きた原因は水素爆発なのか核爆発なのか、核燃料は原子炉下のコンクリートを突き破っていないのかどうか。こういったことが明らかにならないと、今後の事故収束のための手順に違いが出ることでしょう。

記事によると3月の時点でTEPCO(東京電力)が再臨界を示す同位体のCl38が検出を報告していたが、NISA(原子力安全・保安院)がNa24も同時に出ていないのでそのデータには疑問があるとしたという。しかしその後再度データを見ると、明らかにCl38が検出されていたらしい。
また、原発事故の際に冷却装置のスイッチを切り替えたのかなど、当時の状況を知るのに必要な情報を求めたところ、当時の手順書の多くが黒塗りにされて提出されたことは有名です。黒塗りは知的財産やセキュリティー上の必要性からの処置とのこと。
このような政府と東電との情報や意思疎通がうまくいっていない例がいくつか挙げられていました。おそらくこのような理由から、鳩山氏らは国有化が必要だという主張をしたのだと思います。

また国有化による情報開示を具体的にどう進めるかというと、独立した科学者を福島原発に派遣して調査をすることで実態を調べるということが提案されています。

しかし国有化することで果たして情報開示が進むかは疑問です。東北の地震や原発事故後に限らず東北の地震のことを思い出すと、東電だけでなく政府自身も情報を隠していたり政府内での情報伝達がうまくいっていなかったように思います。たとえばベント後にいっこうにSPEEDIの情報が開示されなかったのは、東電とは関係なく政府が情報を隠したか、政府内での組織運営がうまくいっていなかったからだと思います。地震後の何日かで支援が必要な状況で、被災地に物資が届かなかったということもあります。
むしろ政府に一元化したほうが情報が隠されるんじゃないかという気もします。ですから国有化をしたとしても、同時に情報開示と説明責任を明示しなければ意味がないように思います。

2011年12月14日水曜日

酵母の多細胞化?『実験進化学』の最近の成果

今週出た11月18日号のscience誌では、実験進化学の記事がありました。実験室で酵母を多細胞に進化させたという触れ込みなので、ちょっと期待して読んでみました。
実験進化学は主に微生物が対象で、特定の環境負荷と選別によって実際に生物を進化させることで、進化について研究する分野です。人類は長い歴史の中ですでに栽培植物や家畜など、意図的に種の形質を変化させています。実験進化学は主に微生物を使って、それをもっと短いスパンで行うことに特徴があると言えると思います。
記事では実験進化学の最近の成果として、3つの研究が挙げられていました。

1つ目はGraham Bellが行った研究で、藻類に光を当てない環境に置いて選別をし続けたところ、光に頼らないで生きられるものができたそうです。いろいろな経路で変化した個体がいて、それらがどのように変化していったかを追跡して行ってもっと詳細が分かれば、生物が遺伝的・機能的にどのような経緯をたどって進化して行くかが分かるかもしれません。

2つ目はAneil Agrawalの、なぜ性が存在するかを問う研究です。
agrawal
ワムシという微少な動物は有性生殖と無性生殖をスイッチできます。このワムシ達を、エサの栄養分が一定の環境と、栄養分を変動させた環境に分けて置き、有性と無性の個体の割合を調べたそうです。そうすると環境が変動した場合に有性が多くなり、環境が一定になると有性が減っていったということです。
この結果から、有性生殖は環境変化への適応という意味でメリットがあるという説を補強できるかもしれません。

僕としては、この実験からはまだまだそのような確定的なことは言えないと思います。エサの栄養による環境変化という側面でしか見ていないですし、たとえば栄養が変動することで代謝が変わって、有性と無性の割合に変化があっただけかもしれません。
性が存在するメリットとして、遺伝子をオスとメスで混ざり合うことで環境への適応度が高くなるという説がありますが、無性生殖の場合も分裂した時の変異で環境への適応度が高くなります。したがって、有性生殖ではオスとメスが出会って子を産むことの非効率さのコストと環境適応などのメリットの兼ね合い、無性生殖では遺伝的単一性の環境変化への危うさと増殖の早さのメリットの兼ね合いがあって、有性生殖の方がより有利であるなら有性が選ばれるのかもしれません。もしそうなら、どの程度の環境変化で有性生殖が有利になるのかが本当に知りたいところです。

3つ目はWill Ratcliffによる酵母の多細胞化の研究でした。
Ratcliff
まず選別の基準として大きな酵母が生き残るように設定し、そのような大きな酵母を選び取るために酵母の入った培養液をしばらく放置して下に溜まった1%を選び、さらに大きくなると遠心分離器で分離して大きな個体を選別していったらしい。その結果、普通は酵母同士がバラバラに分離するのに、バラバラになるための酵素がなくなり、これらの酵母は互いに接着してクラスターを形成していったという。大きな酵母が生き残るという選別の結果、酵母同士がかたまることでもっと大きくなったと解釈できそうです。
素人目には、単に互いにくっつくようになっただけに見えなくもないですが、このような単純な実験で意図的に選別することで多細胞化のような変化が起きたことが注目に値する所らしいです。

多細胞生物の特徴というと細胞が集まるということも重要ですが、もっと重要な側面は細胞同士の分業だと思います。つまり多細胞生物では生殖細胞がすべての体細胞を作り出し、体細胞がそれぞれ機能を分化していくという側面です。
ですからもしも実験室で意図的に選別を行って、細胞の分業をも作り出すことができたとしたらそれこそすごいと思います。また、環境の変動という意味では、他の生物や同種の細胞との競争という側面を実験室で再現するということができれば、さらに選別の方法が広がると思います。
現状ではまだその端緒といったところなのでしょうか。

こういった進化を意図的に引き起こして研究するという試みは、遺伝子組み換え技術を補間するという意味で重要だと思います。遺伝子組み換えはあくまでも遺伝子の切り貼りであって、細胞内の他のタンパク質との相互作用や、細胞特有の情報伝達をそのままに、単に他から遺伝子を導入しているというのが現状だと思います。一方進化というのは、小さな変異を環境への適応を通じて、全体を少しずつ微調整していく過程です。だから、遺伝子を導入した後に細胞や組織内でどのようにそれを定着させていくか、あるいは変異を通じていかに生物に目的の遺伝子型を持たせるかということに、この学問の知見は使えるかと思います。

参考ウェブサイト:This Week in Evolution R. Ford Denison

2011年12月9日金曜日

無料で使える海外の学問・教育サイトのまとめ(ツール編)

(1) Gapminderは、国ごとの一人あたりの所得と寿命など2つの指標の動きを、年を追って動的に見ることができるツールです。普通のグラフやチャートでは、動的な動きが分からないことが多いと思います。特に加速度や速度を同じグラフで表そうとすると、ややこしくなりやすいのですが、このツールでは動きという情報があるために、それぞれの国の指標がどのように変化しているかが直観的に分かります。


この動画のように、各国の動きをまるでレースのように見ることができます。また、指標は自由にカスタマイズできますが、経済指標だけでなくHIV感染率や、ジェンダーなど社会的な指標がとてもたくさん用意されています。Open Graph Menuで、意味のある知見が得られる指標の組があらかじめ用意されているので、まずはそれに従ってみるといいかもしれません。
見てて思うのは、中国の近年経済的・社会的状況が加速度的に変化していることと、途上国の間でも動きに差があることです。また過去40年間における世界の地震による死亡者を見ると、意外にも中国や中東、中南米も多いようです。

(2) Wolfram Alphaは、ネット検索と数値計算、Wikipediaを統合したようなツールです。普通ネットで何かを検索するときは、サイトに載っているような言葉をあらかじめ想像して、その言葉が引っかかるような検索語を入力します。そしてそこから望む情報が載っているサイトを探し回ります。しかし未だに、SF映画のような、ロボットに聞きたいことを話しかけるとロボットが答えてくれるようなものにはなっていません。yahoo知恵袋などでは、そういった検索に引っかからないような質問に、人が答えるという場を提供しています。一方Walfram Alphaは、文章に近い言葉でも検索でき、検索した結果からサイトを探し出すのではなく、直接データを出力してくれます。
wolfram alpha

たとえばハンバーガーとアイスを食べた時に含まれる脂質量を知りたいとき、普通ならそれらの脂質が載っているサイトを検索して調べ、計算機でデータを出します。Walfram Alphaでは、「amount of fat in 1 hamburger + ice cream」と入力すると、それらの結果やコレステロール量などのデータが一気に出てきます。「weather in Tokyo」で検索すると、東京の天気が直接出てきます。
また、実験などで試料を秤量するときにモル表記の数値から何グラム加えるかを計算したりします。例えば50mmol/Lの次亜塩素酸ナトリウムを作りたい時に、溶液に何グラム加えたらいいのかを「sodium hypochlorite 50mmol/L」で検索すると、すぐに1Lに3.72gと出てきます。これで濃度計算のような煩雑な作業を省けるかもしれません。
なお、一応日本語でも翻訳されて検索できるようです。

ただし欠点もあります。検索の要求に幅広く答えることはできるのですが、やはりそれでも意図の通りの検索が出ない時があります。googleなどの普通の検索と違って、どこまでの言葉に対応しているのかが分からないので、前もって検索がうまくいくか不明確です。

(3) クルーグマン マクロ経済学は、ノーベル経済学賞受賞者の、クルーグマンのウェブサイトで、彼の有名な教科書の補間的なものとなっています。
klugman macroeconomics
経済学にとってグラフは重要ですが、教科書ではグラフの動きを表すために、たくさんの線を書き込んでいて分かりにくいことが多いように思います。そういった経済学のグラフを動きを含めて表示するコンテンツや、経済学クイズ、クルーグマン本人が金融危機問題などを語るビデオなどが見れます。
ただ、サイトの動作が多少重いのと、サイトの構造が分かりにくいのが欠点だと思います。

(4) PhETは、物理・化学・生物学・数学・地球科学などの学問の概念や理論を、ゲームのような操作で理解できるツールが集められています。
Phet chemistry
これの良いところは、単に触れるというだけでなく、パラメータを動かしてどうなるかといった本格的なシミュレーションとなっているものが多いことです。例えばフーリエ変換や、ウサギを突然変異させ、野に放つ進化シミュレーションパチンコで作る確率分布など、教科書では静的に見るだけの理論を、自分でいじることで理解できます。理解の程度を試す小クイズや、子どもなどに教えるための手引きなども用意されています。
大人でも充分楽しめるくらいのクオリティだと思いますし、学校教育にも使えるレベルのものだと思います。

関連記事:無料で見れる海外の学問・教育サイトのまとめ(動画編)

2011年12月6日火曜日

無料で見れる海外の学問・教育サイトのまとめ(動画編)

(1)
ネットで無料で見ることが出来る大学の講義動画サイトで、現在最も有名なのは『MIT OPENCOURCEWARE』でしょう。動画だけでなく、音声、講義ノート、テスト問題など、名門MITの講義で使われる多くの要素を、ネットで誰でも見ることができます。使われる言語はもちろん英語ですが、現在は中国語などの翻訳が進められています。残念ながら、日本語翻訳は、google翻訳を使った機械的なものに留まっているようですが、将来的には世界の流れに乗って、日本語翻訳も進められるかもしれません。

・欠点を挙げます。
動画などが見れる講義と見れない講義があり、また講義ノートなども中途半端に公開しているものがあるので、すべての講義で見たいものがすべて見れるようにはなっていないところ。また講義の検索も分かりにくい。
講義動画は1つにつき120分ほどの長さで、気楽に見るには長すぎる。さらに講義の録画なので授業の事務的な話などの冗長な部分がある。

個人的におすすめなのは、講義ノートを見ることです。ノートだけでもよくまとまっているし、すでに知っている部分は一目で飛ばせます。なのでまずは講義ノートを見てみて、詳しく知りたいときには動画を見るのがいいと思います。
MIT  lewin
自ら体を張って物理を教えるWalter Lewinの有名な講義も見てみてはどうでしょう。

(2)
また、UC Berkeleyでも同じように講義動画をたくさん公開しています。

(3) 
・MIT OPENCOUCEWAREの動画は長すぎるという欠点がありましたが、その欠点をなくしたものと言えるのが、『Khan Academy』です。カーンさんが、趣味で始めたもので、動画時間はだいたい10分ほど、手書きの図を書きながら話を進めるのが特徴。内容は、数学、生物学、化学、経済学、アートヒストリー、天文学など。本人は金融業をしていたようなので、経済学やファイナンスなどがとても詳しく、分かりやすいように思います。


・欠点としては、本人のしゃべり方が早口なので、非ネイティブには聞き取りづらいこと。なので、動画で描かれる図を見て、ある程度想像しながら聞くことになるかもしれません。さらに、カーンさんの非専門であろう領域、たとえば生物学などは、とても教科書的で、あまり珍しい知見はないように思います。なので、初級者がその分野を知ろうとするには良いかもしれませんが、ある程度分野の知識があるならば、すでに知っている情報が多いかもしれません。

(4)
カーンアカデミーを補完するように、主に生物学を扱う動画として、BozemanSceinceがあります。こちらも個人的に趣味で始めたもので、顔出し+綺麗なプレゼンスライドがあり、見やすいです。また実際に実験をしながらの動画もあります。


(5)
DNAtubeでは、CGを使ったヴィジュアルの良い生物学の動画がとても多くあります。時間も短いものが多いので、見やすいです。しかしサイトが重いのが欠点。