2012年3月11日日曜日

切りたい場所のDNAを切れるオーダーメイドのハサミ、gene editing(ジーン・エディティング)

ある遺伝子を取り除いたり他の生き物の遺伝子を組み込むためにはDNAを切り貼りする酵素が必要です。DNAを切り取るハサミとしてよく使われるのは制限酵素です。でも制限酵素は基本的に回文構造になっているDNA配列の部分しか認識してくれません。回文はたとえば「しんぶんし」や「たけやぶやけた」みたいに前から読んでも後ろから読んでも同じになるような文です。
制限酵素でDNAを切りたいとき、ちょうど切り取りたい場所に回文配列があればいいのですが、実際にはその場所が少なすぎたり多すぎたり、また仕方ないので余分な部分を残したまま切断するしかなかったりします。

ではオーダーメイドのように狙った場所できちんと切断できるものはないのかな、と思ってたらそれがあります。

「gene editing(ジーン・エディティング)」という方法は、いままでの制限酵素ではなくzincフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)などを使います。このzincフィンガーはいくつかのDNA配列を一組でとして認識してくっつく性質があるので、zincフィンガータンパク質をつなげて狙ったDNA配列だけにくっつくようにすれば、あとはその場所を切断できます。
zincフィンガーヌクレアーゼを使ったジーン・エディティングは2011年の時点でヒトのHIV患者の臨床にも使われています。患者のCD4+ T細胞を取り出して、その細胞に入っているHIV感染の要因を作るCCR5遺伝子を壊し、再びT細胞を患者の体に戻すと6人中5人で免疫機能が上昇したそうです。
しかしzincフィンガータンパク質はちゃんとDNAにくっつくようにするのが難しかったり欠点もあるとのこと。

そこで新しい酵素としてtalens(transcription activator like effector nucleases)を使う方法が考えられています。この酵素はzincフィンガーと違ってDNAの配列を一ずつ認識でき、酵素同士をつなげた場合でも相互作用が少ないだから文字どおりオーダーメイドで思った通りの配列を認識できるハサミが作れることになります。ただし現状では酵素を作るのが難しかったりするみたいですが。

いずれにしても既製品としての制限酵素の役割が、すぐにジーン・エディティングに完全にとって変わられることはないでしょう。いちいちオーダーメイドで酵素を作成するよりは、DNA配列を調べてそれに合う制限酵素を冷凍庫から取り出した方が楽だからです。ですが服と同じようにニッチの要求に応えるためにはオーダーメイドはなくてはならない手段ですから、今後に期待です。

参考ウェブサイト:Targeted gene editing enters clinic

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